[レポート] プロダクトゴールとは?あるいはプロダクトのゴールを設定するには何が必要か? #RSGT2022
データアナリティクス事業本部 サービスソリューション部 サービス開発チームのしんやです。
2022年01月05日(水)〜2022年01月07日(金)の3日間、現地(東京:御茶ノ水ソラシティ カンファレンスセンター)及びリモートでのハイブリッドで開催されたスクラムイベント『Regional Scrum Gathering℠ Tokyo 2022』にリモート参戦しました。
当エントリでは、初日に開催されたセッション「プロダクトゴールとは?あるいはプロダクトのゴールを設定するには何が必要か?」のレポートを紹介します。
目次
セッション概要
イベントサイトで公開されている登壇者及び発表内容の「概要」は以下の通りです。
プロダクトゴールとは?あるいはプロダクトのゴールを設定するには何が必要か?
【登壇者】
長沢 智治氏(サーバントワークス株式会社 代表取締役)
【説明】
『スクラムガイド』2020年11月版より登場した「プロダクトゴール」。ガイドによれば、以下のように説明されています。
プロダクトゴールは、プロダクトの将来の状態を表している。それがスクラムチームの計画のターゲットとなる。(中略)プロダクトは、明確な境界、既知のステークホルダー、明確に定義されたユーザーや顧客を持っている。(後略)
ここでだけみても非常に重要なゴールであることがわかります。しかしながら、自分たちのプロダクトにとってのゴールを具体的に設定するには、考慮すべきパラメータが多いのではないかという印象をどうしても受けてしまいます。それでいてあらかじめ決められた目標や予算、期日にロックオンされ、有名無実なプロダクトゴールにならざるをえなく、建設的なプロダクトゴールを諦めてしまっていないでしょうか。はたまた硬直化したプロダクトゴールは経験主義と矛盾した概念や結果につながりかねず、従来思考の経営者やマネジメントへの誤解の元にもなるという議論も積み重ねてきました。
このセッションでは、「プロダクトゴール」を解説しつつ、できるだけ具体的で成果につながるプロダクトゴールを設定するために、アジャイルコーチが支援先でも共に取り組んでいる「エビデンスベースドマネジメント」を用いたプロダクトゴールの設定と達成(あるいは放棄)についての考察を共有します。
セッション発表資料
こちらのセッションは既に資料が公開されています。スライド資料は以下。
本日の資料を放流しましたー「プロダクトゴールとは?あるいはプロダクトのゴールを設定するには何が必要か?」 https://t.co/6m6YfT5Dj3 #RSGT2022 #プロダクトゴール #スクラム
— 長沢智治@RSGT2022登壇 (@tnagasawa) January 5, 2022
セッションレポート
確約(Commitment)
- フレーズの引用
- スクラムの作成物:作成物は3つ、これらを作成して表すことによって透明性がもたらされる。それぞれにコミットメント(確約)があり、この確約によって進捗を測定することが出来る
- プロダクトバックログ:プロダクトゴールのための確約
- スプリントバックログ:スプリントゴールのための確約
- インクリメント:完成の定義を満たすためのもの
- コミットメント(確約)は他人に押し付けられたりするものではない
- "契約"や他者との"約束事"ではない
- 自分たちがより良いプロダクトを作っていくために自らが選択してやり遂げるもの
- スクラムでは"確約"や"予測"は出来る(が、何かを契約したり約束するのは難しい)
- プロダクトゴールを目指すために小さなゴールとしてスプリントゴールを設け、インクリメントを作っていく
- スクラムのイベント:検査と適応を行う最低限の機会がそれぞれ設けられている(これらは必ずやる)
- スプリントプランニング
- デイリースクラム
- スプリントレビュー
- スプリントレトロスペクティブ
プロダクトゴール(Product Goal)
- プロダクトゴールを考える時に、長沢氏はいつも下記フレーズを思い浮かべる
- 「踏み出す一歩は大きくなくていい、ただ方向さえ正しければ」(by Jemma Simmons)
- 最新版スクラムガイド(2020年11月)の中で『プロダクトゴール』という言葉は15回(『ゴール』だと40回)出てくるのだそう
- この中には『プロダクトゴール』に関する定義や説明がなされている。非常に大事なもの
- 「プロダクトゴール」が今まで無かった場合、それらは無視していたのか?→否。殆どのチームがプロダクトビジョンを描き、それに向かっていたはず
- この定義が出来たことでとても分かりやすいものになった(by 長沢氏)
- プロダクトゴールがあることによって、目指す・実現するもの、ステークホルダーが期待するものが明確になった
- 「外向きのプロダクトゴール」と「内向きのプロダクトゴール」を別々に設けるべきではない。あくまでも1つ
- ステークホルダーマップを使って対象となるステークホルダーを絞っていき、一緒に考えていくということも有用
プロダクトゴールがあることで得られるメリット
- 最上位の期待値がマネージ出来るようになる
- 毎回のスプリントで出て来たインクリメントに対して、新たな価値であるかというのを見ていくことが出来る
- 2をもとにして次のアイデアを検討していく(プロダクトバックログにしていく)ことが出来る
- 余談:PBIの受け入れフロー:この中にもしっかりと「プロダクトゴール」は組み込まれている
プロダクトゴール:プロダクトビジョンへの"踏み石"
- プロダクトビジョンから「ビジョン(Vision)」が成り立ち、ビジョン(Vision)が価値(Value)になり、Validationになる。/これは3Vsと言われている
- The Professional Product Owner and the Three Vs | Scrum.org
- やってはいけないこと(その他"やるべきこと"についてはスライド参照)
- 【やってはいけない】プロダクトバックログを抽象化してプロダクトゴールを作ること
- あくまでビジョンがあって、マーケットや社会の課題などから映し出されるものでプロダクトゴールを表現すること。
- でないと、(プロダクトゴールが)単にチームが作りたい機能の寄せ集めになってしまう危険がある
- 【やってはいけない】プロダクトゴールを"解決策を伝えるもの"にしてしまうこと
- やるべきスコープを固定してしまったり、やり方を単一化してしまったりすることになり、柔軟性が無くなってしまう
- 【やってはいけない】プロダクトバックログを抽象化してプロダクトゴールを作ること
プロダクトビジョン:プロダクトへの重要な4つの質問
- 我々のプロダクトは何か?
- 我々のプロダクトでないものは何か?
- 我々のプロダクトを構成するものは何か?
- 我々のプロダクトは何の一部なのか?
プロダクトゴールとは
- 明示的に示されていなければならない(FAST)
- 1度に目指すものはたった1つ
- スプリント毎に近付いているかを検査していく
- 計測出来なければならない(EBM, HEART)
- 例)日本で『オンラインどら焼き店』のNo.1になる
EBMとプロダクトゴール(Product Goal with EBM)
- プロダクトゴール、言うのは簡単だが関係者と一緒にちゃんとしたものを考えていくのは大変
- 「大いなるチカラには、大いなる責任が伴う」 *4 by Benjamin Parker *5
- 不確実性の高いVUCA時代、予測した通りの未来がやってくるかどうかは分からない→予測主義によるマネジメントから経験主義によるマネジメントへ
- ビジネスもプロダクトも検証ループを回すことになる、その中で様々な指標を見ていかなければならないし、それらにマッチするようなマネジメント手法を取っていく必要がある
エビデンスベースドマネジメント(EBM):
- 経験主義に基づくマネジメントフレームワーク
- 研修や認定試験もあるらしい
EBMの重要価値領域(KVA)
- ビジネス価値・アジリティとして必ず考えなければならない要素群。これらに基づく指標を計測していかなければならない。これを強くビジネス層から推し進めて欲しい。でないとスクラムでやりましょう、プロダクトゴールを作りましょうといってもなかなか協力してもらえない
- 市場価値
- 未実現の価値(UV)
- 現在の価値(CV)
- 組織的な能力
- 市場に出すまでの時間(T2M)
- イノベーションの能力(A2I)
- 市場価値
- EBMのガイドには領域毎の重要価値指標(KVM)が定義、紹介されている。その他以下の情報も参考になる。
EBMにおけるゴール設定
- 即時戦術ゴール/中間ゴール/戦略的ゴール
- プロダクトゴールとどのように結び付くのか?:
- ここがマッピング出来てくると、経営・マネジメント層とプロダクト開発側のコミュニケーションが取れる
- マッピングは現場の状況によるが、戦略的ゴールだと抽象度が高すぎなので中間ゴールや即時戦術ゴール、その中間辺りにプロダクトゴールを定めるのが良いのではないか。(by 長沢氏)
- プロダクトゴールを基にしてこれらを考えていくことでチームをまとめていくことが出来、ステークホルダーとのやり取りも煮詰めていくことが出来る
- 例). とあるプロダクトの各種ゴールの設定 *6
セッションまとめ
まとめ
という訳で、長沢 智治氏のセッション「プロダクトゴールとは?あるいはプロダクトのゴールを設定するには何が必要か?」@ Regional Scrum Gathering℠ Tokyo 2022 のレポート紹介でした。
「プロダクトゴール」を定めることで得られるメリットが数多くあるというのがこのセッションで良く分かりました。現在携わっているプロジェクト・プロダクトに関しても、このセッションで得られた知見を踏まえて内容を見直し、改善を進めていきたいと思います。
ちなみにこのセッション、内容自体は勿論言うまでもなく非常に参考になるものでしたが、全編を通して長沢氏の「こだわり」が随所に見られていたのが個人的には「流石...!」と思いました。(※個人的にはP.35が一番のお気に入り)